トルコのイスタンブールで開催されたバイナンス・ブロックチェーン・ウィーク2023は、仮想通貨・ブロックチェーンコミュニティが集まり、価格変動にかかわらずWeb3エコシステムが成長を続けていることを示した。

バイナンス主催のイベントであるにもかかわらず、この会議には業界の重要人物が多数参加した。中でも注目されたのは、バイナンスが2018年に買収した分散型Web3ウォレットプロバイダーのトラスト・ウォレットだ。買収以降、トラスト・ウォレットは「バイナンスのウォレット部門」と広く見なされてきた。そのため、バイナンスが自社のWeb3ウォレットを 発表した 際には多く野人が驚かされた。

トラスト・ウォレットのエオウィン・チェンCEO(元バイナンス副社長)は「バイナンスは集中型分野に焦点を当てており、トラスト・ウォレットは分散型エコシステムに向けて努力している」とし、「トラスト・ウォレットは、仮想通貨業界のどの企業とも提携し、サービスを提供できる中立性を持っている」と述べた。「その独立性と距離を保つことが、文化と才能を独自の使命に向けて維持する最良の方法だ」とも語った。

チェン氏によると、トラスト・ウォレットは2017年のイニシャル・コイン・オファリング(ICO)ブーム中に、アクセスしやすいモバイルウォレットの必要性から誕生した。「開発者に焦点を当てた拡張ウォレットとしては唯一の存在だった」とチェン氏は言う。トラスト・ウォレットは、ユーザーと開発者を分散型ブロックチェーンの世界へと導くことに注力している。

仮想通貨の弱気市場で最良のユーザー維持戦略は? トラスト・ウォレットCEOに聞く【インタビュー】 image 0 トラスト・ウォレットのエオウィン・チェンCEO Source: Cointelegraph

「最近、バイナンスの子会社となり、バイナンスの下で運営するという競争上より良い立場を得た」とチェン氏は説明する。「引き続き互いに提携することができ、バイナンスWeb3ウォレットは戦略的パートナーシップの結果だ」

詐欺とセキュリティの問題

チェン氏は、ユーザーエクスペリエンスの改善に比べて、Web3全体のセキュリティ問題を解決することはより難しいと指摘する。アプリ中心のユーザーエクスペリエンスとは異なり、セキュリティの脆弱性はブロックチェーン、分散型アプリケーション、スマートコントラクト、あるいはウォレットのコードレベルで発生する可能性がある。

詐欺行為によるセキュリティ問題の大部分は、ユーザーにセキュリティ警告を無視させたり、より良い判断を疑わせたりするため、社会的な側面が大き作用している。チェン氏は「詐欺師は優れたカスタマーサポートを提供する」とし、「詐欺に遭ったユーザーを導くカスタマーサポート体験を提供し始めた」とトラスト・ウォレットのセキュリティチームが観察していることを明らかにした。

詐欺や不正を防ぐことは非常に困難な問題だ。「コミュニティの問題であり、教育が必要な人々の問題だ。教育には時間と努力がかかり、リターンのない努力が必要だ」とチェン氏は述べる。「コミュニティと業界全体が、人々をよりよく教育する方法を見つけ出す必要がある。それが難しい部分だ。技術の問題ではなく、運用の問題だ」と強調した。

新しいWeb3スタートアップの規模が小さいことも、業界のセキュリティにとっての課題であるとチェン氏は指摘する。「昨日、セキュリティの専門家と話をしたが、多くの新しいプロジェクトはセキュリティ監査を行わないことを選んでいると言っていた」とチェン氏は語る。小規模なWeb3プロジェクトがセキュリティ監査を行っても、より厳格なプロバイダーを使用せず、ロールアウトの遅延を避け、お金を節約するために最も安い料金の監査プロバイダーを選ぶ傾向がある。

Web3の競争が激化

基調講演でチェン氏は、「信頼は弱気市場での最良のユーザー維持戦略だ」と述べた。エコシステムのオープンな性質のため、Web3におけるユーザー維持はより重要だ。「特定の製品やサービスを離れる際の障壁がないため、競争は10倍に増加したかもしれない」とチェン氏は指摘する。

ユーザーは単に秘密鍵を取得して、資金や活動を別のサービスに移すことができる。しかし、ユーザー維持戦略は、ユーザーが離れることを恐れて閉鎖的なエコシステムを作り出すことに依存すべきではない。チェン氏は、「実際にユーザーと信頼関係を築いた」と強調した。

同社の戦略は成果を上げている。チェン氏によると、弱気市場であっても、トラスト・ウォレットは過去2年間で総ダウンロード数を約60%増加させ、総計7000万ダウンロードを超えた。モバイルでの週間アクティブウォレットユーザーの市場シェアも20%から40%に倍増した。

「時間の経過とともに、プロジェクトとチームが挑戦やミスに対処し、人々が快適に付き合い続けると感じさせることができるとき、それが重要だ」とチェン氏は述べる。

Web3業界が次の10億ユーザーに対応する準備ができているかどうかは、Web3企業のリスク許容度とプロファイルに依存するとチェン氏は指摘する。「Web3は、人々が試してみる価値があるほどの十分なユーティリティとユースケースシナリオを提供しているか?」とチェン氏は反語的に問いかける。「それが次の10億人を搭乗させる前の鍵となる質問だ」

価値移転システムとしてのブロックチェーン

Web3で有望と考えている点について質問すると、チェン氏はWeb3への魅力が主に2つの要素に根ざしていることだと答える。1つ目は、ブロックチェーンがインターネットの価値移転システムになる可能性だ。インターネットが情報の自由な移転を実現している一方で、ブロックチェーンはそれを基盤として価値の移転を可能にする。

2つ目は、個々のコレクションの市場パフォーマンスに関わらず、非代替性トークン(NFT)のアイデアを信じていることだ。「市場価格のセンチメントに影響されるべきではない」とチェン氏は付け加え、「より多くの人々にアクセスを提供する所有権のトークン化は依然として価値があるものであり、私たちはより良いメカニズムを見つけて実現することができる」と述べた。

チェン氏は、NFTをめぐるイノベーションとブロックチェーンを価値移転システムとして活用することが、社会に実際の価値をもたらすだろうと主張する。

翻訳・編集 コインテレグラフジャパン