最高裁、コインチェック流出NEM収受事件の上告を棄却
最高裁が上告を棄却
2018年に発生した暗号資産(仮想通貨)ネム:NEM(XEM)が暗号資産取引所コインチェックから流出した事件において、最高裁が上告棄却の判決を7月16日下した。
この裁判は、摘発された31人のうちの1人に関するもの。一審で控訴審は、攻撃者の行為に電算機詐欺罪が成立するとし、被告人の行為に犯罪収益収受罪の成立を認めた。これに対し被告人は上告したが、今回最高裁はこれを棄却した。
事件の概要
コインチェックは2018年1月、何者かによってサイバー攻撃を受けた。これにより580億円相当のNEMが外部に不正流出した。
攻撃者はダークウェブ上に交換所を開設し、流出させたNEMを他の暗号資産と交換することでロンダリングを実施。なお攻撃者はディスカウントしたレートで交換を行っており、交換に応じた者は安価にNEMを入手できるようになっていた。
警視庁は、攻撃者に対し電子計算機使用詐欺罪の疑いでの捜査を開始したが攻撃者の特定はできなかった。しかし警視庁はNEMの交換に応じた31人を犯罪収益等収受罪(組織犯罪処罰法11条)の疑いで摘発。
このような背景から、今回の裁判では、被告人が受け取ったものが「犯罪収益」と認められるかの前提として、攻撃者の行為が電算機詐欺罪に該当するかが争点となっていた。
判決について
最高裁は判決文にて「本件移転行為が電子計算機使用詐欺罪に該当し、本件NEMが組織的犯罪処罰法2条2項1号にいう『犯罪行為により得た財産』に当たるとして、その一部を収受した被告人について、犯罪収益等収受罪の成立を認めた第1 審判決を是認した原判断は正当である。よって、刑訴法414条、396条により、裁判官全員一致の意見で、主文(本件上告を棄却する)のとおり判決する」と述べた。
また最高裁は、攻撃者が「不正に入手したA社(コインチェック)のNEMの秘密鍵で署名した上で本件移転行為に係るトランザクション情報をNEMのネットワークに送信した行為は、正規に秘密鍵を保有するA社(コインチェック)がNEMの取引をするものであるとの『虚偽の情報』をNEMのネットワークを構成するNISノードに与えたものというべき」とし、本件移転行為が電子計算機使用詐欺罪に該当するため、本件のNEMは「犯罪行為により得た財産」に当たり、その一部を収受した被告人に犯罪収益等収受罪が成立すると結論づけている。
社会的信用や暗号資産の役割等を考慮
今回の判決では、「たしかにNEMのシステムはトランザクション情報に署名した者が正規の秘密鍵保有者であるか否かを判別する仕組みを持たない」が、「NEMのシステムに対する社会の信頼は、正規の秘密鍵保有者が秘密鍵の管理を通じてNEMを排他的に支配することができることによって確保される」と述べられた。
つまり正規の秘密鍵保有者以外の人物が不正な方法で秘密鍵を入手し署名する行為は、「正規の秘密鍵保有者のNEMに対する排他的支配を害し、NEMのシステムに対する社会の信頼を損なう」ため、正規の秘密鍵保有者だと主体を偽ったトランザクション情報をNEMのネットワークを構成するNISノードに与えた行為と論じ定めた。
この判決は、暗号資産業界の通説の「not your keys, not your coins」(鍵の所有者こそが、コインの所有者である)に沿うものではないが、最高裁は「システム単体としての仕組みや働き等からロジカルに演繹されるものではない」とし、NEMの利用実態やNEMシステムの取引に対する社会的信用、暗号資産が社会経済において果たしている役割や重要性等の観点からの考察を考慮し判断したとしている。
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参考: 最高裁
images:iStock/Svetlana-Borovkova・PhonlamaiPhoto
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この記事の著者・インタビューイ
髙橋知里
「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
同社コンテンツビジネス局では書籍PRや企業向けコンテンツの企画立案に従事。「あたらしい経済」編集部では記事執筆を担当。
「あたらしい経済」編集部 記者・編集者
同志社大学神学部を卒業後、放送局勤務を経て、2019年幻冬舎へ入社。
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